嫁に

「…嫌です」

 

「もう決まったことだ」

 

「…パパ…どうしてこんなこと…」

 

わなわなと震える唇を噛みしめからだの横で手を握りしめた。

 

「お前には良い条件だろう?」

 

「何がです?!」

 

「これ以上に無い話だ」

 

「パパ!」

 

 

 

 

 

「以上だ」

 

そう言って席を立つパパ。

 

こうなるともう話はして貰えない。

 

リビングを出て書斎へ向かうパパの背中を見送り

 

パタン…

 

と言う音と共にその場に泣き崩れた。

 

 

 

 

 

「茉愛沙〈まあさ〉…」

 

そっと私の肩に手を置き気遣うように声をかけてくれたのはママ。

 

「どうして…急にあんなことを…」

 

「ごめんなさい。急…ではないのよ。少し前から私は聞いていたの」

 

「そんな!」

 

「止めようとしたのよ。あなたの意見も聞かずに良くないって…」

 

 

 

 

私はこの春、中等科から在籍していた《凰秀国際女学院》の短大を卒業した。

 

大学ではなく何故短大にしたのかは、その後留学ではなくイギリスへ移住してお婆様の元で暮らそうと思っていたから。

 

 

 

 

私のママは日本人の父とイギリス人の母を持つハーフ。

 

だから私はクオーター。

 

 

 

 

 

戦時中、負傷したお爺様を介抱したお婆様との間に恋が芽生え晴れてゴールイン。

 

まるで映画のような話。

 

お婆様は元々貴族でイギリス王室ともゆかりの有る家柄。

 

そこへそのまま留まる形で結婚したお祖父様。

 

語学の壁と、生活の違いで仕事をすることは出来なかったけどそれでもお婆様との愛は順調に育まれた。

 

ママはその娘として花のように育った。

 

でも、貴族と言うのは名ばかりで時代と共に何の力も権力も持たなくなり、富も食い尽くすばかりの生活。

 

 

 

 

 

そして、ママはパパと結婚した…

 

 

 

 

 

それは…

 

お爺様とお婆様の生活を守る為に。

 

貴族出身として生まれ育ったお婆様の生活は変わらない。

 

そしてお祖父様との暮らしも状況が変わっても変わらない。

 

パーティーに招待され、また招待する。

 

贅沢な暮らしに慣れてしまったお婆様を助けるため。

 

お祖父様はこの先の危機を分かっていても、自分の不甲斐なさが招く生活の現状にただ、ママに頭を下げるしか出来なかったと言う。

 

 

 

 

ママは出席したパーティーでパパに見初められ、お爺様達の生活の援助を条件にパパと結婚した。

 

そして私が生まれた。

 

 

 

 

元々、そこに愛が有った訳でもないパパとママの間には冷たい風が吹き抜けていて、パパは当たり前のように、外に愛人を作りその間に子供を作った。

 

そして、家に引き取り《息子》として跡取りを作った。

 

私には兄が1人と、弟が1人居る。

 

 

 

 

 

それぞれ母親の違う…兄弟。

 

 

兄の修星〈しゅうせい〉は6つ上の26歳。

 

アメリカの大学を出て、今はパパの会社の後を継ぐべく副社長と言う立場。

 

 

 

 

 

弟の塔季〈とうき〉は私より5つ下で今はまだ高校に入ったばかり。

 

いずれは兄の右腕にでも成るのだろう。

 

 

 

 

 

会社の事は全く知らないから分からないけど、《男》は役に立つが、《女》は駒にしかならないと常々言っていたパパ。

 

 

 

 

 

それは幼い頃から私に呪文のように植え付けられた言葉。

 

そしてそれが私の運命なんだと聞かされて育った。

 

だから頭では自分の立場を理解していたつもり。

 

 

 

 

 

《政略結婚》

 

 

 

 

 

会社の利益になる所へ嫁に出される。

 

それが私が生まれてから課せられていた運命。

 

いわゆる私《駒》の使い道。

 

 

 

 

 

だけど…

 

これは実際に突きつけられるとそう簡単に受け入れられる物事ではなかった。

 

 

 

 

私が20歳に成るのを待っていたかのようにされた話。

 

これは相談ではなかった。

 

報告。

 

式は2ヶ月後。

 

6月の吉日。

 

両家の打ち合わせは済んでいるらしく、私は明日、形だけの《お見合い》と言う段取りを踏まされるらしい。

 

 

 

 

 

そんなこと聞いてない。

 

卒業して直ぐにお婆様の所へ行っていた私に直ぐに帰国するように言ったパパ。

 

数年前に他界したお爺様のお墓参りに行けただけ。

 

何もする間もなく帰国したその日の夜…

 

 

 

 

 

それが今日…今の出来事。

 

 

「どうしてこんなことに…」

 

「ごめんなさい…何の力にもなってあげられなくて」

 

 

 

 

 

ママはそう言うけど、多分こうなるまでにママなりに色々と気遣ってくれたんだと思う。

 

悪いのはママじゃない。

 

パパでもない。

 

 

 

 

 

怒っても、駄々をこねても事態は変わらないだろう。

 

それに私が通っていた女学院の中でも政略結婚は当たり前の事だった。

 

早い子は高校生の時から相手が決まり、卒業と同時に籍を入れ、そこから短大、大学に通う人も居た。

 

いや、もっと上手を言うなら生まれた時から許嫁が居たと言う子も居た。

 

そこに私たち《娘》の意思はない。

 

 

 

 

 

「きっと大丈夫。上手くやれるわ」

 

ママに心配をかけても泣き言を言っても事態は変わらない。

 

ならば、運命を受け入れるしかない。

 

 

 

 

 

涙を拭って立ち上がり

 

三条 茉愛沙 〈さんじょう まあさ〉

 

人生の分岐点に立った。



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