結婚相手の彼女

最後のお色直しは一人で入場した。

 

場内の証明が落とされ、スポットライトが私を追いかける。

 

手に持ったドレスの裾。

 

そして相変わらずティアラのみの装飾の髪。

 

でも、今回は自分の髪の毛が一番の装飾かも。

 

皆がドレスと髪のコラボに見とれる。

 

少しキラキラと光るスプレーを吹き掛けられ肌もキラキラと煌めく。

 

 

 

 

 

そのままスタッフの人にあしらって貰い自分の席に座った。

 

 

 

式は進み…

 

白いリボンの付けられたケーキナイフを渡され、私の手の上から零の手が重ねられた。

 

…天井まで届きそうなケーキにナイフを入れ、そのままストップ!と言われ写真撮影…

 

マスコミ関係が多く、カメラのフラッシュも半端ない。

 

 

 

 

 

フラッシュの光に一瞬だけクラっとして、形だけ回されていた零の腰への腕に力が込められ支えられた事を知る。

 

「す、すみません」

 

小さな声で零に謝り、そして少しもたれ掛かった体を立て直し1人で立つ。

 

やがて降り注いだフラッシュが無くなり、私と零の手からスタッフにナイフが引き取られ、また、自分の席に戻った。

 

その後も…

 

各テーブルへの挨拶を兼ねてのキャンドルサービス…

 

各業界のお偉いさんのスピーチ…

 

盛りだくさんのイベントにうんざりしながら漸く終演を迎えた。

 

 

 

 

零のエスコートは完璧だった。

 

無駄がなく、優雅にエスコートされ、優しく差し出される手に思わず本当にその手を取る所だった。

 

私も完璧に出来たつもり。

 

重ねた手に寄りかかること無く私は一人で歩いた。

 

形だけに絡めた腕にすがることも無く…

 

エスコートの後の零への御礼の微笑みも忘れない。

 

寄り添い合うのではなく初々しさを演じたつもり。

 

その方が好感度が上がるのではないかと思ったから。

 

私の中で精一杯計算し尽くした。

 

零はかなりクールで表情もほとんど変わらない。

 

その零に甘さよりも、程よい距離感が有る方が似合う気がした。

 

あの…赤いスーツの人とは、素敵に寄り添っていたけど…

 

 

 

 

 

零は鋭い目を回りに走らせ、式の間も側近の人にさりげなく指示を出す。

 

素直に凄い人だと思った。

 

「本日は、本当にありがとうございました」

 

 

 

 

 

零の横に立ち披露宴の出席者に一人一人挨拶をしてお見送りをした。

 

最後の人が中々出て来ないと報告を受け、何をしてるのかと会場に戻り扉から覗いた。

 

そこにはテーブルを飾り付けられていた花を一生懸命手を伸ばして取ろうとしている椿の姿が。

 

 

 

 

 

「椿?」

 

「あ、茉愛沙。これが…取れなくて…」

 

と、大きなお腹を横にして目の前の花に手を伸ばそうとしていた。

 

「止めて!私が取るから」

 

と、カサブランカの大輪を有るだけ取って渡した。

 

「ありがとう。ごめんね。花嫁にこんなことさせてしまって」

 

「ううん。私こそありがとう。体が大変な時に…」

 

「何言ってるの。茉愛沙の晴れ舞台に来ないわけ無いじゃん。それも全く知らない内にこんなことになってるし。それより一華〈いちか〉ちゃんが
『ごめんね。顔出すだけになって』
って謝ってたよ」

 

そう言ってニッコリと笑ってくれた。

 

「…椿」

 

思わず涙が溢れそうになり、

 

「さ、もう出ましょ」

 

と、椿の荷物を持つ。

 

かなりお腹が大きくなってるし、長い時間の披露宴で疲れていないだろうか。

 

「椿、タクシーで帰って?」

 

「いいよ。この時間なら全然平気で電車走ってるし」

 

「時間はね。まだ5時頃だから。でも…体が駄目。無理しないで」

 

そう言って自分がドレス姿なのも気にせず、椿の荷物を持ってホテルを出て目の前のタクシーに無理矢理のせた。

 

そうは言ったものの今はお金を持っていない。

 

少し迷ったが運転手に

 

「支払いは…三条に請求を。彼女からは絶対に受け取らないで下さい」

 

と言っていると、横から万札が数枚差し出された。

 

「!」

 

驚いてその手の主を見ると…

 

零がお金を差し出していた。

 

「え?あの…」

 

驚いたのは私で思わず数歩後ずさった。

 

そして…後ろの裾が長くなっているドレスの裾を踏んずけて…

 

「きゃあ!」

 

と、バランスを崩した。

 

ガシッ!

 

「っつ!あぶねぇ…」

 

片腕で支えられ、後ろに倒れ込みそうになるのをグイッと戻される。

 

 

 

 

 

「…す、すみません」

 

そう言って直ぐに零から離れ、取り合えず私はタクシーに向かって

 

「お願いします」

 

と、頭を下げた。

 

後部座席の椿に

 

「また、連絡するね。体を大事にして」

 

と、言ってから手を上げた。

 

 

 

 

 

零がタクシーの運転手にお金を渡したことで、漸く走り出したタクシーを見えなくなるまで見送った。

 

青葉の事は一言も話さなかった。

 

椿はどう思っただろう。

 

自分の兄と付き合っていたはずの私が…ある日突然他の人と結婚することになったと送りつけた招待状を見たとき…

 

でも…

 

今はそれどころではない。

 

 

 

 

 

そして零に深々と頭を下げる。

 

「ありがとうございました。お金は後で…」

 

「金はいい。入るぞ」

 

そう言って

 

『これで1つ事が済んだ』

 

と言わんばかりにさっさと行ってしまう。

 

 

 

 

 

「…はい」

 

後に続いてロビーに入ると、大森さんが私を探していた。

 

「あ、居た居た!」

 

そう言って近寄ってきた。

 

「最後の着替えをしなきゃ。今からまだ2次会が有るんでしょ?」

 

「…ええ。そうですね」

 

「さ、こっちに来て」

 

と、強引に腕を引っ張られた。

 

 

 

 

 

でも…

 

そうは言ったものの、本当は聞いてない。

 

どこまで私は同席するの?

 

零は友達と個人的に過ごしたいんじゃ無いだろうか…

 

私の居ないところで。

 

それに、こんな日だからこそ彼女の所へ…

 

 

 

 

 

私は零の姿を探してロビーを見渡す。

 

でも、着替えに行ったのかもう既に零の姿は無かった。

 

控え室に入った私は早々にドレスを脱いだ。

 

そしてキャミソールを来て、ワンピースに袖を通す。

 

薄いグリーンのシフォンのふんわりとしたワンピース。

 

全体に小さな花柄が透かしてあって…

 

これは朝着てきたワンピース。

 

 

 

 

 

何も考えずにこれを着て来てしまったけど、この服で2次会?

 

「…あの」

 

「はい?」

 

「これって…2次会とか…大丈夫ですか?」

 

と、ワンピースを見下ろす。

 

「全然!素敵ですよ!後は私が茉愛沙さんの可愛さ120%引き出してあげますからね!」

 

促されるままドレッサーに座った私はティアラを外して貰い髪をほどいた。

 

丁寧にブラッシングしてもらってから、結い上げていた時に癖が付いてしまった所にたっぷりとヘアスプレーをかけて、ブロー
していく。

 

いつもはほんの少しうねりがあるのに、今は綺麗なストレートになった。

 

そしてメイクもワンピースに合わせて可愛らしいものに。

 

来るとき持ってきたシルバーのバックの中身を確認する。

 

朝のまま。

 

携帯とお財布とハンカチとティッシュ。

 

そして小さい化粧ポーチ。

 

 

 

 

 

だけど…

 

この姿で零の側に居るのは違う気がした。

 

零に私は似合わない。

 

どう見ても私には大人の雰囲気なんてない。

 

零に合うのは…あの人。

 

それに零が望んでいるのも…

 

あの人。

 

 

 

 

 

私は先に家に帰らせて貰おう。
「今日は本当にお世話になってありがとうございました」

 

大森さんに挨拶をして控え室をでた。

 

扉を背にしてふぅ…と大きく息を吐き出した。

 

そしてロビーの方へ…

 

「…!」

 

 

 

 

 

そこには…

 

零が壁に背中を預けて立っていた。

 

天井にタバコの煙を吐き出しながら。

 

 

 

 

 

待っていてくれたんだろうか?

 

それとも

 

『帰れ』

 

と言う為に待っていたのか…。

 

 

 

 

 

「お疲れ様です」

 

そう言ってゆっくりと近づく。

 

近づかれるのか嫌なら背を向けて行くだろうと、その間を持つ。

 

でも、零は私が側に行くまで動かなかった。

 

追い付いた頃壁から背を離し先を歩く。

 

少し戸惑いながらも着いていった。

 

聞くべき?

 

黙って着いていくべき?

 

 

 

 

 

「2次会は《shell》だ」

 

「…はい」

 

これは、

 

『来い』

 

と言うことだろう。

 

肩に掛けていたバックを零とは逆の方にかけ直した。